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2008年3月25日 (火)

多重債務者問題改善プログラムと司法書士の役割~日司連の取り組みを中心に~

 消費者法ニュースに寄稿させていただいた、日司連の取り組みについてです。ご参考。

1.はじめに
 金融庁は、平成19 年4 月20 日、「多重債務問題改善プログラム」を策定した。
『貸し手への規制を通じて、新たな多重債務者の発生を抑制しようとするものであるが、その一方で、今後、改正法完全施行に向けて、既存の借り手や、相対的にリスクの高い新規の借り手に対して円滑に資金が供給されにくくなる可能性は否定できず、さらに、いわゆるヤミ金がこうした借り手を対象に跋扈することも懸念される。』という基本的認識に基づくものであることにまず留意したい。
 したがって、いわば「借り手対策」として、特に現に多重債務状態に陥っている者に対して、債務整理や生活再建のための相談(カウンセリング)を行い、その上で、あくまで解決手段の一方法として、セーフティネット貸付けを提供するとともに、新たな多重債務者の発生予防のため、金融経済教育の強化を図ることが喫緊の課題とされており、また、ヤミ金の撲滅に向けた取締りの強化も不可欠とされる。

2.「多重債務問題改善プログラム」について
 大きな柱は次の4本である。
(1)丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化
(2)借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸付けの提供
(3)多重債務者発生予防のための金融経済教育の強化
(4)ヤミ金の撲滅に向けた取締りの強化
 いずれも、多重債務問題に取り組む司法書士にとっては、極めて重要な問題であり、積極的な関与が望まれることは言うまでもなかろう。以下詳述する。

(1)丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化
 プログラムの基本的な考え方は、『多数の多重債務者がどこにも相談できないまま生活に行き詰まるおそれがある中で、相談体制の強化はすぐに措置すべき課題であり、少なくとも「できるところからやり始める」ことが重要と考えられる。その際には、国は自らできる限りの取組みを行うとともに、地方自治体の取組みも重要となってくる。』というものである。
 そして、『地方自治体(特に市町村)は、住民から最も身近で、住民との接触機会も多く、現状でも消費生活センターやその他の相談窓口で多重債務相談に応じているところもあり、消費者基本法上国とともに消費者政策の担い手であることから、「多重債務者への対応は自治体自らの責務」との意識を持って、自ら主体的に相談窓口における積極的な対応を行うことが望まれる。』とされているが、まさにその通りであり、大いに共感できる。
 また、『地方自治体は、複数の部署で住民への様々な接触機会があり、多重債務者の掘り起こし(発見)について、他の主体に比べて機能発揮を期待できるものと考えられる。また、生活保護や児童虐待対策など、多重債務者が抱え得る多重債務以外の問題も含めて総合的に問題を解決する役割も期待できるものと考えられる。』との指摘もその通りであろう。
 さらに、地方自治体内の連携として指摘されている、『地方自治体が、多重債務者が抱え得る多重債務以外の問題も含めて総合的に問題を解決する機能を効果的に発揮する観点から、例えば、生活保護を担当する福祉事務所、家庭内暴力・児童虐待、公営住宅料金徴収の担当部署等で、多重債務者を発見した場合、相談窓口に直接連絡して誘導するといった取組みを行うなど、それぞれの地方自治体内において、各部局間の連携を進めるよう要請する。』との点についても、是非奨励していただきたいと考えるものである。

 一方、相談窓口における対応としては、多重債務に陥った事情を丁寧に聴取し、考えられる解決法の選択肢(任意整理、特定調停、個人再生、自己破産等)を検討・助言し、必要に応じて専門機関(弁護士・司法書士、医療機関等)に紹介・誘導するといったプロセスをとることが望ましいとされている。
 しかしながら、全ての市町村に一律の対応を求めるのではなく、比較的対応能力が認められる自治体に対して、丁寧な事情の聴取や具体的な解決方法の検討・助言ができるよう、相談体制・内容の充実を要請することが求められている。現実問題として、多重債務の相談に十分な能力を兼ね備えている方ばかりではないであろうから、それはやむを得ないであろう。そこで、この点について、連合会は、行政の相談担当者に対して、相談にあたっての支援ツールを作成し、HP上から無償でダウンロードできるようなシステムを構築している。大いに活用していただきたい。http://www.shiho-shoshi.or.jp/

 そして、都道府県における取組みとして、市町村が専門機関と円滑な連携ができるように、弁護士・司法書士、関係団体のネットワークの構築等を支援・指導することが要請されており、そうした観点から、各都道府県において、都道府県庁の関係部署、都道府県警察、域内の弁護士会・司法書士会、多重債務者支援団体、その他関係団体で、「多重債務者対策本部(又は同協議会)」を設立し、都道府県内の多重債務者対策推進のために必要な協議を行うことが求められている。その中で、特に、都道府県が弁護士会・司法書士会に対して、多重債務問題に積極的に取り組んでいる弁護士・司法書士のリストアップを求めることが要請されているのである。
 この点に関連して、連合会に対しても、金融庁からリストの提出が求められており、既に提出済みとなっている。

(2)借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸付けの提供
 消費者が貸金業者等からの債務の返済に窮した場合の対応としては、まずは丁寧な事情の聴取と債務整理等も含めた解決方法の検討が必要であるが、その上で、自己破産・個人再生等の債務整理とあわせて、あくまで多重債務問題解決の一つの選択肢として、セーフティネット貸付けの提供についても検討が必要であるとされている。

 この点については、各種の提案がなされているので、詳細は、是非、プログラム全文をお読みいただきたいが、以下の二点につき指摘・提案しておきたい。

①生活保護制度
 所得そのものが低い者を対象とした社会保障の最後のセーフティネットである生活保護については、受けられるべき生活保護が受けられずに高金利の貸付けがそれを代行するといった事態が発生しないよう、適正な運用を図ることがプログラムでも指摘されている。
 一部の先駆的な司法書士の取り組みによって、生活保護申請に関する支援のノウハウは蓄積されつつある。全国青年司法書士協議会(伊見真希会長)においては、毎年、全国一斉の生活保護110番を実施するなど積極的な取り組みをしており、全国の弁護士らとのネットワークも各地で進んでいる。
 連合会においても、先般の総会において、『民事法律扶助の本来事業の対象とならない高齢者、障がい者、ホームレスを対象とした出張法律相談、生活保護受給などの行政処分の申立についての援助を目的とする法律援助事業の実施を求める。なお、本法律援助事業の実施に関しては、日司連が法テラスに一括委託することを前提とする。また、本事業の予算に関しては、テスト事業費より金500万円を支出することとする。』という趣旨の高齢者、障がい者、ホームレスを対象とした法律援助事業の実施を求める決議が採択されており、まさにこの決議に基づく活動が進んでいる状態にある。
 一人でも多くの司法書士が、この問題に取り組むことの可能な環境整備も整えていく必要があるものと考えている。

②社会保障制度についての研修等
 ①にも関連するが、筆者の地元静岡県司法書士会では、県の多重債務問題連絡会議の立ち上がりに連動し、社会保障制度に関する研修会を一月に一度のペースで開催し、会員はもちろん、行政の相談窓口担当者らこの問題に取り組む方々と共に研修を重ねている。
 すなわち、多重債務の法的整理のみならず、生活再建のために各種社会保障制度をいかに活用するかという観点からの活動である。会員のみならず行政の相談窓口等にも呼びかけ、生活保護、医療保険等の社会保障制度を共に学んでいくことにより、各相談窓口との連携を深めていくことも主眼である。
 各単位会におかれても、是非とも検討していただきたい。

(3)多重債務者発生予防のための金融経済教育の強化
 現在の多重債務者救済のための相談体制の整備等とともに、対策の車の両輪となるものが、多重債務者発生防止のための教育であり、極めて重要な課題であるとの認識に基づくものである。
 学校教育における取組みとしては、社会に出る前に、高校生までの段階で、全ての生徒が、具体的な事例を用いて、借金をした場合の金利や返済額、上限金利制度、多重債務状態からの救済策(債務整理などの制度や相談窓口の存在)等の知識を得られるよう取り組むとされており、現在改訂作業が進められている高校の家庭科の学習指導要領において、多重債務問題について取り扱うことを具体的に検討するなどとされている。
 そして、学習指導要領の見直しの内容を踏まえて、担当の全ての教師がこうした問題を教えることができるように、教員養成課程のカリキュラムに組み込むとともに、現職の教員への研修等を行うとされており、研修については、必要に応じて、自治体や弁護士会・司法書士会等の関係団体の協力を仰ぐことも検討されている。

 連合会においても、これらの問題に関して、消費者法制検討委員会のメンバーが中心となって、DVDを完成させており、文科省の認定を受けたところである。単位会にも配布済みであるので、是非、ご活用いただければと思う。

(4)ヤミ金の撲滅に向けた取締りの強化
 今回の改正貸金業法の規制強化を実効的なものとし、借りられなくなった人がヤミ金の被害に遭うことを防止するためには、本プログラムに掲げる他の施策を進めるとともに、取締りを強化することにより、違法な高金利・無登録営業等のヤミ金を撲滅することが不可欠であるとの認識に基づくものである。
 警察や監督当局は、ヤミ金の撲滅に向けて取締りを徹底し、警察においては、当分の間、集中取締本部を維持し摘発を強化するとされている。
 また、犯罪収益移転防止法においては、郵便物受取・電話受付サービス業者に対して、本人確認、取引記録の保存、疑わしい取引の届出が義務付けられたところであるので、その施行後は、ヤミ金対策に積極的に活用するとされている。
 さらに、ヤミ金による被害相談を受けた監督当局や警察は、状況に応じて、迅速に被害をストップするため、違法な貸付けや取立てを直ちに中止するように、電話による警告等を積極的に行う。特に、警察は、ヤミ金による取立てを少しでも早くストップさせるよう、携帯電話不正利用防止法に基づく携帯電話の利用停止の制度を積極的に活用することを検討するとされているので留意されたい。
 そして、警察は、現場の警察官が貸金業を営む者による違法行為に対して適切な対応ができるよう徹底するために、平易で実践的なマニュアルを現場の警察官に配布し、制度の基本的な知識を周知する。そのマニュアルは具体的な相談に対応できるような内容とし、ヤミ金からの借入れには返済義務がない場合があることを明記するとともに、警察以外の適切な相談窓口の紹介についても盛り込むとされている。
 残念ながら、上記の点については、未だに現場の警察官まで周知徹底がなされていないように思える。現場の司法書士が、このプログラムの内容をきちんと伝えていく必要があろう。

 連合会においては、先般の定時総会において、『私たち司法書士は、その職責として、多重債務者が抱える登録・無登録・090金融等、すべてのヤミ金の相談に積極的に応じるとともに、自らヤミ金との交渉にあたり、相談者の多重債務問題の抜本的解決と精神的・経済的再建に向けた業務を遂行し、「ヤミ金撲滅に向けて最後まで闘い続けること」をここに宣言する。』という趣旨の「私たち司法書士はヤミ金撲滅に向けて最後まで闘います。」宣言決議を採択しており、まさにこの実践が期待されている。
 この場を借りて、改めてお願いしたい。ヤミ金融事件を敬遠することなく、適切な対応をするように。

3.全国一斉多重債務相談ウィークの実施について

 平成19 年8月15 日、多重債務者対策本部では「全国一斉多重債務者相談ウィーク」の実施を決定している。そして、この主催は、多重債務者対策本部、日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会の3者となっている。
 期間は、平成19 年12 月10 日(月)から12 月16 日(日)までの1週間である。
 その趣旨は、次のとおりである。
『深刻な社会問題である多重債務問題を抜本的に解決するため、当対策本部は、「多重債務問題改善プログラム」を決定し、直ちに取り組むべき網羅的な施策をとりまとめた(平成19 年4月20 日)。同プログラムにおいては、住民から最も身近な地方自治体において、現に多重債務に陥っている者に対して債務整理や生活再建のための相談を行う等の体制整備を求めている。こうした全国の地方自治体における相談窓口の整備を一層促進し、各地域の多重債務者が相談窓口を訪れる一つの契機を提供すべく「全国一斉多重債務者相談ウィーク」を設けることとする。』

 また、留意点として、次の点などがあげられている。
① 無料相談会を経て、具体の債務整理の手続きに移行する場合、相談者が特定調停による債務整理が適当と判断されれば、弁護士・司法書士は積極的に特定調停の手続きを薦め、相談者の費用負担軽減に努める。
② 無料相談会には生活に困窮している多重債務者が多いと予想されることから、仮に、弁護士・司法書士が受任することになった場合には、弁護士費用・司法書士費用については、その実情に応じ極力低廉な価格に設定し、併せて分割返済を基本とする。

 連合会としても、この点につき、その趣旨に鑑み、法律扶助の利用が可能な事案に関しては、可能な限り法律扶助を利用するものとし、そうでない事案についても、法律扶助による費用以下の価格に設定していただくことを奨励しているところである。
 なお、連合会が「法律扶助基準を上限とする」ことについての可否について、「全国一斉多重債務相談ウィーク」に限定するのであれば問題はないという回答を、公正取引委員会からいただいていることを申し添えておく。。

 この「全国一斉多重債務相談ウィーク」の実施にあたり、全国の多くの司法書士が、多くの相談にたり、多くの多重債務者の生活再建に関わることとなっている。全国各地における司法書士のさらなる活躍を期待したい。

4.私たちに負託された役割はこれまで以上に大きい

 私たち司法書士は、この「多重債務問題改善プログラム」策定の基となった昨年末の貸金業法改正に大きく関わってきた。
 様々な意見表明はもちろんのことであるが、最も大きかったのは、全国各地の地方議会における意見書の請願・陳情活動であったと思われる。つまり、昨年12月に成立した改正貸金業法は、全国各地の司法書士が、日弁連や全国の被害者の会、労働者団体、消費者団体などと連携した運動に参画したことによって勝ち得た法律ともいえるのではなかろうか。
 もちろん、最大の契機は、平成16年2月20日に商工ファンドに対して下された判断に始まり、平成17年12月15日にリボリング方式の貸付に関して下された判断、そして、決定打となった「期限の利益喪失約款」における任意性についての平成18年1月13日及び19日の判断という一連の最高裁判決であることについては間違いがない。
 また、大手消費者金融業者の行政処分も一つの要因であろう。
 しかし、各地の司法書士がリードした全国の地方議会における請願活動の成果が、世論の形成に大きく貢献し、国会の議論に繋がったというのも間違いない事実と考えられるからである。例外なき上限金利引き下げ等消費者のための貸金業法改正を、全国津々浦々の地方議会に対して、切実に訴え続けた各地の司法書士の地道な努力が結集されたからこそ、当該地域選出の国会議員の心に響き、結果としてこのような改正を勝ち得たと考えられるのである。
 従って、法改正に深く関わった司法書士に寄せられている期待は、極めて大きなものがあることについても異論はなかろう。この「多重債務問題改善プログラム」においても、法律家「司法書士」の位置づけは弁護士と同じく明確である。既に、各地では、都道府県主導の「多重債務問題連絡会議」が立ち上がっており、司法書士会も構成メンバーになっている。是非とも議論をリードしていただきたいと切望するものである。
 上限金利引き下げがもたらす「貸し渋り」などにより、消費者金融の利用者がヤミ金融の被害者となるようなことがあってはならない。この点については、全力をあげて防がなければならないし、不幸にもヤミ金融業者の被害に遭遇してしまった被害者についても、当然に救済する責務がある。
 施行後2年半以内に行われる改正貸金業法見直し時期に向けて、既に法律家「司法書士」の姿勢と実績が既に問われているのである。

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